「水素水に効果・効能が全くない」ことを科学的に証明する

公開日:
更新日:
カテゴリー: 生活

一昨日は父の日だったので久しぶりに実家に帰って家族全員が揃ったのですが、なんと姉が親父へのプレゼントとして「水素水」を渡していました。そして一言

水素水は健康にいいよ

と。詳しく話を聞くと、どうやら水素水にはこのような効能があるらしい。

水素水は、老化の原因と言われている活性酸素を消去するので体の老化を防ぐ

未だに「水素水は健康に効果・効能がある」と誤って認識している人がいるとわかったので、大学で「生物化学領域」を学んだ者としてこの件を科学的に考察してみたいと思います。

水素水に効果・効能はない

まずは大事なものを先にということで、この記事の要点をまとめます。

  • 水素水を作るのは簡単だが、水素水の容器を開けた瞬間水素が抜けて「ただの水」になる
  • 水素自体に抗酸化作用はあるけど、そもそも水素が体内に吸収されないので意味がない
  • 仮に水素が体内に吸収されていても、寿命の短い活性酸素をピンポイントに消去できるはずがない

つまり・・・

水素水には健康に良い影響を与える効果・効能はない

というのが私の結論です。以下に詳しく述べます!

水素水とは?

水素水の効果・効能を考える前に、まずは「水素水の定義」を把握しなければなりません。

ネットで調べたところ、水素水というのは概ね次のように説明されていました。

水素分子が高い濃度で溶けている水

※以下「水素」と述べるときは「水素分子」の意味とします

高い水素濃度ってどれくらい?

「水素分子が高い濃度で溶けている水」って抽象的すぎて定義とは呼べないので「水素の溶存濃度」を調べてみたのですが、どうやら公的な定義はないようです。

なので市販されている水素水(なるもの)の水素溶存濃度はさまざまとのこと。

「日本分子状水素医学生物学会」による水素水の定義

ちなみに「一般社団法人 日本分子状水素医学生物学会」のサイト(このサイト自体もなんか怪しい)では次のように定義されていました。

分子状水素を含む水を水素水という。
水素水の濃度について、動物モデルに対しては、飽和の
  5%  80μg/L(0.08ppm)
  10% 160μg/L(0.16ppm)
でも効果を示す時があることが示されているが、人に対する研究では過飽和または飽和に近い濃度の水素水が主に用いられている。
市販の水素水も技術力が上がり、飽和の
  50% 800μg/L(0.8ppm)
を超える商品が主流となっている。

この学会の定義から水素水の溶存水素濃度を抜粋するとこのようになります。

  • 0.08 ppm → 動物モデルに対して効果を示す時がある
  • 0.16 ppm → 動物モデルに対して効果を示す時がある
  • 0.8 ppm  → 市販の水素水の濃度

ということで、我々一般の消費者は「市販の水素水に効果・効能があるのか?」が知りたいので、ここでは

0.8 ppmの水素が溶存している水を水素水と定義

したいと思います。

「ppm」ってどんな単位?

理系の人は「ppm」がどんな単位であるかご存知だと思いますが、文系の人にはなじみがないと思います。

「ppm」は「parts per million(パーツパーミリオン)」の略で「百万分率」を示す単位です。

なじみの深い%(パーセント)で表すと、「1 ppm = 0.0001 %」となります。

つまり、水素水1L中に溶けている水素の濃度は、(水素水に溶存する水素の濃度を0.8 ppmと定義したので)水素水1Lを1kg(1000 g)とすると

1000 g × 0.00008 %(0.0000008) = 0.0008 g(800μg)

つまり水素水1L中には「0.0008 g」の水素が含まれていることになります。

水素水って作れるの?

中学校の理科や高校の化学では「水素は水に溶けにくい」と学習したので、「水素って水に溶けにくいよね?水素水って作れるの?」と疑問に感じたので、理論的に水素水が作れるのか検証しました。

水1Lに水素はどれくらい溶けるのか?

水1L中に「0.0008 g」の水素が含まれていれば水素水となるのですが、「そもそも水1L中に水素は何グラム溶けるのか?」が気になったので、あらゆる化学データがまとめられている「化学便覧(改定5版)」をもとに1気圧で水1Lに溶ける水素の質量(g)を求めてみました。

なるほど、1気圧20℃では「0.00163 g」の水素が溶けることが分かりました(理論上、水素水の定義を満たす飲料水は簡単に作れることが分かりました)。

ただしこのデータは次のように容器の中に充満している気体が全て水素の場合です。

※全て水素で充たされていない空間では、水から水素が空気中に放出されます

空気中では水1Lに水素は何グラム溶けるのか?

Wikipediaで空気の組成を調べたところ、水素は体積比で「0.00005%」含まれていることが分かりました。

すなわち

一定量の溶媒に溶ける気体の物質量(質量)は、その気体の圧力(分圧)に比例する

というヘンリーの法則と、1気圧の空気に含まれる水素の分圧は

1気圧 × 0.00005/100 = 0.0000005気圧

であることから、1気圧20℃(一般的な日常環境ではないでしょうか?)において水素は水に

0.00163 g × 0.0000005 = 0.0000000008 g(0.0008μg)

「0.0000000008 g」しか溶けません。

  • 水素水1L中には
    「0.0008 g(800μg)」の水素が含まれていなければならない
  • 一般的な環境の空気では水1L中には
    「0.0000000008 g(0.0008μg)」しか水素は溶けない

つまり工場で水素水は簡単に作れるけど、水素水の容器を開けた瞬間、水素が(ほぼ)全部抜ける!

整理すると・・・

  • 工場で水素水作る   ← 理論的に余裕で可能
  • 水素水の容器を開ける ← 水素がいっきに空気中に放たれる(空気中では水素の溶解度は「0.0000000008 g」しかないから)

つまり、水素水の容器を開けた瞬間、もはやそれは水素水ではなくなる(容器を開けた瞬間、いっきに水素が抜けて、水素水の定義である水1L中に「0.0008 g」の水素が溶けているという定義を満たさなくなるから)

もしどこかのアホが「いや容器を開けただけでは水素は抜けない!」というならば、それは化学の常識を覆す新発見となります。

そして水素水を褒めたたえているサイトにも、

容器入り水素水のパッケージに表示されている溶存水素濃度に、充填時や出荷時とある場合は、飲用する時の濃度とは限りません

と半ば敗北宣言を出しているところもあります。

水素は一気には抜けない、ゆっくり抜ける?

もし「容器を開けても水素は逃げない!」と言い張る方がいたら、私が

水素の溶解度と空気中での分圧

という科学的(化学的)な側面から水素水のおかしさを突いたように、科学的な側面から反証をしてほしいです。

さて、炭酸水(無理やり二酸化炭素を溶かし込んだ水)の容器を開けたとき、一瞬、急激に二酸化炭素は逃げていきますが、すべては抜けていかず徐々に炭酸は抜けていきます。

なので「水素も一気には逃げていかない!」と主張する人がいそうですが、それは誤りです。

水素と二酸化炭素は物性が違う

水素と二酸化炭素は同じ気体ですが、物性は異なります。

まず化学的な話になりますが、水という物質は「極性分子」なので、極性を持つ物質(分子)と相性が良く、いわゆる「溶ける」という現象が起きやすくなります

さて、水素も二酸化炭素も「無極性分子」ですが、有する電子は

  • 水素が2つ
  • 二酸化炭素が22個

です。

化学的に二酸化炭素をマクロな視点で見ると無極性分子ですが、

電子の数が多ければ多いほど(無極性分子であっても)電子の不均一による極性のずれ

が生じるため、はるかに水素よりも極性を持ちます。

その証拠に、同様に1気圧で水1Lに溶ける二酸化炭素の質量(g)を求めてみると、

1気圧20℃では水素の約48倍も水に溶けやすいことがわかります。

このことからも、水素を二酸化炭素と同じように扱って「水素は徐々に抜けていく」とできないことがわかります。

そして容器を開けた瞬間だけでなく、

  • 水素水を口に含む   ← ここでも水素が抜ける
  • 水素水が胃にとどまる ← ここでも水素が抜ける

そして・・・

そもそも水素って体内に吸収されるんですか?

水素は宇宙一小さな二原子分子なので体内に入らないこともないと思いますが、空気中に逃げていく量の方がはるかに多いはずです(ここは詳細な知見がないので推測です)。

水素に抗酸化作用はある

次に、水素の抗酸化作用について考えたいと思います。

水素は還元剤として用いられる物質のため、現在の化学の世界では還元作用は一般的に認められています。

そのため、水素を多量に含む水の中で活性酸素を発生させれば、水素が活性酸素と酸化還元反応を起こして、活性酸素を除去するという現象は大いにおきそうです。

私は大学で活性酸素の測定を行っていたので、分光光度計という機器や電子スピン共鳴法を用いれば簡単に実験で検証ができるはずです。

ただしこれは試験管の中での話であり、「試験管の中で水素が活性酸素を除去する」という話と「体内で水素が活性酸素を除去する」という話は全くの別物です。

活性酸素について

研究から離れて既に8年も経過しているので最近の動向はわかりませんが、活性酸素はものすごく「短命」です。

「短命」というのは、

活性酸素は不対電子をもつため化学的に不安定すぎる物質で、生成した次の瞬間には近くにある物質を攻撃(酸化)

します。

その攻撃が染色体上で行われた場合は(その細胞において)遺伝的調和が破壊され、その攻撃が脂質で連続的に行われた場合は過酸化脂質が蓄積して種々の疾患の原因となります(細胞の損傷が激しい場合、最悪がん細胞化する)。

生体内で水素と活性酸素が出会う確率

このように生体内で活性酸素は(殺菌作用として働く場合もありますが)生体内の組織を攻撃して健康に悪影響を及ぼします。

しかし活性酸素は「短命すぎる」ため、仮に水素水の摂取により水素が上手く体内に吸収されたとしても(私はそもそも体内で還元作用を示すほどの量の水素は吸収できないと考えていますが)、水素が活性酸素と出会って酸化還元反応を起こす確率はかなり低いと考えます。

もし「いや、水素水は生体内で活性酸素を除去する!」と主張する人がいたら、

  • 水素水1Lの摂取によってどれほどの水素が生体内に取り込まれるのか?
  • そして生体を構成する細胞一個に対して何個の水素分子がいきわたるのか?
  • 細胞一個に生成する活性酸素はいくつなのか?

などなどをもとに試算してもらいたいです。

まとめ

以上のことをまとめると、

  • 水素水を作るのは簡単だが、水素水の容器を開けた瞬間水素が抜けて「ただの水」になる
  • 水素自体に抗酸化作用はあるけど、そもそも水素が体内に吸収されないので意味がない
  • 仮に水素が体内に吸収されていても、寿命の短い活性酸素をピンポイントに消去できるはずがない

つまり・・・

水素水には健康に良い影響を与える効果・効能はない

というのが私の結論です。

それっぽいことを述べているサイトは、「試験管」での実験結果をもとに「水素は活性酸素を除去する!」と主張し、それをなぜか「生体内」の話にすり替えていますが、

  • 試験管内の実験(in vitro[インビトロ]という)
  • 生体内の実験(in vivo[インビボ]という)

はまったく別物で同列には扱えません。

ストレスが一番の敵

姉は家族の前で

水素水は、老化の原因と言われている活性酸素を消去するので体の老化を防ぐ

と誤った知識を話していましたが、内心「は?バカじゃないの?」と思いました。

その場で訂正しようと思いましたが、お祝いの日に喧嘩になって久しぶりの家族団らんを台無しにするわけにもいかず

と言ってスルーしました(喧嘩になってストレスを感じて活性酸素が生じたら、それこそ家族全員で水素水を一気飲みしなければなりませんw)。

締めの一句

水素水 フタを開ければ ただの水(季語なし)

 

2017/06/29 19:29追記

「論文」という言葉に思考停止してはいけない

ブックマークでそれっぽく論文を引き合いにだしたコメントを頂いたのでこれに関して追記をしておきます。

水素水の容器を開けた瞬間、水素が(ほぼ)全部抜ける!→水素水は太田氏が 7ppmの水素水飲ませたりしてガンガン論文発表している。元論文読まずに学部、修士卒程度の知識での批判は筋が悪い。

「7ppmの水素水飲ませたりして」って、工場では7ppmの水素水は簡単に作れますが、被験者が飲むときはただの水ですよ。

本当に被験者が飲むときに7ppm水素が含まれていたら、ヘンリーの法則を覆す大発見なので太田氏にはこの件も論文に書いてもらいたいです(化学界に大きな衝撃を与えられます)。

論文はどこにありますか?

あなたが言う論文がどこにあるかわかりませんし興味がなくて探す時間をカットしましたが、あなたはその論文を読んだのでしょうか?

被験者が水素水を飲むときに確かに水素濃度が7ppmあったと仮定すると、なぜそのようなことが起こり得たのか?あなたの見解を知りたいです(「修士卒程度」と肩書を批判するのではなく、科学的な側面からの批判が欲しいですね)。

論文結果≠水素水の効果

件の論文を探す時に太田氏が出した論文「Molecular hydrogen regulates gene expression by modifying the free radical chain reaction-dependent generation of oxidized phospholipid mediators」を見つけました。

この論文には

培養細胞に高濃度水素水をぶっかけたらフリーラジカル連鎖反応が止まりました!

と書かれており、「そうなんだ」というくらいの感想です。

というのも、記事に書いてある通り水素自体に還元作用があるためフリーラジカル連鎖反応が抑制されても何ら不思議ではありません。

しかしこれは実験環境(実験を行った容器内の水素の分圧)やデータを恣意的にコントロールできる in vitro な実験なので、この論文を引き合いに出して「やっぱり水素水は効果ある!」と in vivo にすり替えるのは間違いです。

なぜこのようなことを書くかというと、やっぱり人間は「権威」に弱く

  • 論文に書いてあった
  • 教授が主張していた

と聞くと無条件に信じてしまうんじゃないか?と思ったからです。

「論文」というのは場所を選ばなければどこにでも出せますし、「インパクトファクター」の低い論文は眉唾なものが多いです。

ですが、水素水を売りたいアフィリエイターや販売者がこのような論文を引っ張ってきて「ほらみろ、水素水効果あるぞ!」と主張しそうなので念のため。

 

あわせて読んでほしい!

 

コメント

まだコメントはありません。

コメントフォーム
お名前
コメント